厚生労働省は19日、75歳以上の医療費の窓口負担を1割から2割に上げる改革案を示した。広く年収155万円以上を基準とする案から、240万円以上に絞る案まで5通りの試算を出した。155万円以上でも対象は605万人(37%)にとどまり、現役世代の年約6兆円に及ぶ負担の軽減額は1430億円にとどまる。給付と負担のバランスを見直す抜本改革は遠い。
現在、75歳以上の後期高齢者の医療費の自己負担は原則として1割。年収が383万円以上の場合は現役世代と同じ3割を負担している。
政府は高齢化で膨張する社会保障費の抑制に向けて、現状では1割負担の層について2022年度までに2割負担の区分を設ける方針だ。厚労省は19日の社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の医療保険部会で、新たに2割負担を求める線引きの案を出した。
具体的には年金収入のみの単身世帯で年収240万円、220万円、200万円、170万円、155万円で区切る5案を例示した。対象は200万~605万人で、後期高齢者に占める割合は13~37%にあたる。
もともと現役世代並みの所得があるとして3割負担している層は7%。改革が実現しても全体として半数以上は現状の1割負担のまま変わらないことになる。
高齢化の加速で後期高齢者の医療費は膨張しており、19年度は約16兆円と医療費全体の4割近くを占めるまでになった。現在は後期高齢者の保険料で1割、現役世代が支払う健康保険料からの仕送りで4割、税金で5割をまかなっている。
現役世代の負担は17年度時点で6.1兆円に達する。新たに後期高齢者に負担増を求めることで現役世代の負担軽減を図る。
今回の案では、2割負担になる対象者が最も多い年収155万円以上の線引きでも、現役世代の負担軽減額は年1430億円(約2%)にとどまる。企業に勤めて厚生年金に加入する被保険者数は約4400万人いる。単純計算で1人あたり年3千円程度の抑制にしかならない。
2割負担の対象は月内にも開く全世代型社会保障検討会議や与党の議論を踏まえ、12月に決着する見通しだ。自民党を支持する日本医師会は負担増の範囲をなるべく狭めるよう求めている。与党からも「240万円以上までにとどめるべきだ」との声が上がっている。大企業の社員が加入する企業の健康保険組合の団体は「今後見込まれる現役世代の負担増を考慮すべきだ」と訴える。
自己負担が2割に引き上がると、1割から倍増する。受診を控えるようになって健康状態が悪化すれば、かえって医療費が膨らみかねないとの見方もある。厚労省は新制度の導入後2年間は外来医療費の負担増を月4500円以内に抑える経過措置も提案した。負担増になる人のうち6割程度が対象になる見込みだ。
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