Eコマースや旅行といったインターネットサービスを振り出しに金融や通信など幅広い事業を展開している楽天が、首都圏を中心に国内で約300店舗を展開する総合スーパー「西友」に出資することで合意した。「ネット」を中心に国内だけで約1億人の会員を集める楽天は「リアル」の典型的な存在であるスーパーに進出することで、「楽天経済圏」のさらなる拡大を図る。
2020年11月16日、発表した。これまで西友は米流通大手ウォルマートの完全子会社だった。楽天は新設する子会社を通じて西友株の20%を取得し、米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)が西友株の65%を取得する。いずれも取得額は非公表だが、株式売買に際して西友の企業価値を約1725億円と評価した。
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西友はどう変わるのか(画像は西友の公式サイトより)
ネットサービスのリアルな窓口としても活用できる
株式の譲渡は2021年1~3月に完了する予定で、残りの西友株15%はウォルマートが引き続き保有する。楽天とウォルマートは18年からネットスーパー事業で提携しており、西友の店舗や楽天の物流センターから利用者宅に食品や日用品を配送するサービスを実施している。これまでも業界内には「いずれ楽天は西友との関係を強めていくのでは」といった見方があった。
ネットを通じて幅広いサービスを提供している楽天にとって、特に生鮮食料品を扱うスーパーは「ジグソーパズルの残されたピース」だった。生鮮品は仕入れや販売に独特のノウハウが必要であり、新規の参入が難しい分野として知られる。そこで楽天は、楽天会員の購買情報と西友側の販売データを融合させて人工知能(AI)で分析することにより、商品発注や在庫管理を自動化して店舗運営の効率化を図る狙いがある模様だ。その上で、新型コロナウイルスの感染拡大で需要が急拡大している生鮮食料品宅配の供給基地として、西友を位置付ける戦略だ。
約300ある西友の店舗は、楽天が展開するさまざまなネットサービスのリアルな窓口としても活用できる。携帯電話や保険といったネットだけの手続きでは不安を感じる人もいるサービスで効果を発揮する可能性がある。
ライバルのアマゾンジャパンは大手スーパーのライフコーポレーションと組んで、生鮮食料品や総菜の宅配サービスを展開しており、生鮮食料品を巡るネットとリアルの融合は大きな潮流だ。自前で通信網を整備して携帯電話事業に参入したばかりの楽天は財務に十分な余力がある状態ではなく、出資のパートナーとしてKKRを引き込んだ形だ。西友の業績が上向けばKKRにもリターンがあり、いずれは楽天がKKRの持ち分を買い取る可能性もある。
一方、かつてセゾングループの中核企業だった西友は2005年にウォルマートの子会社となり、08年に完全子会社となっていた。EDLP(Everyday Low Price)を掲げて、特売期間を設けず、年間を通じて同じ低価格で商品を販売してきたが、ウォルマートによる米国流の手法が独特の商慣習や各地で異なる食文化がある日本には根付かず、事実上の撤退となった。食品スーパー業界そのものは、コロナ下の「巣ごもり需要」の長期化もあって販売は堅調であり、低迷していた西友には起死回生の好機になる可能性もある。
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