ダイムラートラックAGが昨年9月に世界初公開したメルセデス・ベンツブランドの燃料電池トラックのコンセプトモデル「GenH2」は、水素の貯蔵方法に液体水素を採用しているのが特徴。
液化水素の高いエネルギー密度によって、大型車の電動化における課題のひとつである「ディーゼル車並みの長距離運用」を可能にするという提案で、2023年に顧客による実用供試を開始し、25年以降に量産を開始する計画だ。
ここでは同時発表された大型電動トラック「eアクトロス・ロングホール」と「eアクトロス」とともに、GenH2の実像に迫ってみたい。
文/多賀まりお、「フルロード」編集部
※2020年12月10日発売「フルロード」第39号より
【画像ギャラリー】ディーゼル並みの長距離運用!? 2025年以降の量産を計画するダイムラーのコンセプトモデル「GenH2」
■液体水素を使った燃料電池トラック「GenH2」の技術的特徴
GenH2はメルセデス・ベンツ「アクトロス」をベースとする燃料電池駆動によるGCW40t級長距離輸送用2軸セミトラクタ。ホイールベースが短く補機搭載スペースが限られる車型だが、巧みなレイアウトよって従来車と同様の使い勝手を備えている。
燃料電池用の水素を液体状態のマイナス253度で貯蔵する容器は、従来車の燃料タンクと同様にホイールベース間のサイドレール左右に配置。ステンレス製の容器は1基あたり40kgの容量を持ち、魔法瓶と同じ2重構造の真空断熱によって優れた保冷能力を持つ。
現在の燃料電池自動車では水素を圧縮した気体として高圧タンクに貯蔵する方式が多く使われているが、気体に比べて密度が高い液化水素として貯蔵し、使用時に気化させることで搭載量を大幅に増大。長距離輸送で求められる1000km以上の航続距離を実現する。
従来のエンジンコンパートメント部には、最大150kWの電力を発生する燃料電池ユニット2基、その工法のフレーム内側には容量70kWh、出力400kWのバッテリーが搭載され、両電源から制御機器を介して連続出力230kWの電動モーターを擁す自社製電動アクスル「eパワートレーン」を駆動する。
出力制御や燃料電池の温度管理用機器はキャブ後方にコンパクトに配置され、冷却用のラジエターが従来車と同じ位置に備わる。バッテリーの冷却は温度域が異なるため別系統に備わる。
■用途によってBEVとFCVの使い分けるダイムラートラックの提案
燃料電池自動車が車両の動力源に電動機を用いるのはバッテリー電気自動車(BEV)と同じだが、現在の技術ではバッテリーのエネルギー密度が低く重量がかさむため、燃料電池電気自動車(FCV)のほうが多くのエネルギー搭載が可能で航続距離が稼ぎやすい。
とりわけ大型トラックのように総重量が大きい車両で一定以上の航続距離を確保しようとすると、BEVでは大量のバッテリーによる減トンが不可避的となるが、FCVは従来車並みの積載量確保が可能。
これがトラックを電動化にあたって小型車や航続距離が短い車両はBEV、大型車や長い航続距離が必要な車両はFCV、という住み分けの理由になっている。
今回ダイムラートラックAGがFCVのGenH2とともにBEVの「eアクトロス・ロングホール」と「eアクトロス」を発表したのは、こうした条件に基づく使い分けの提案だ。
eアクトロス・ロングホールはGenH2と同じクラスのセミトラクタに最新の高性能バッテリーを大量に搭載したもので、航続距離は約500kmを確保。計画されたルートでの運行ではドライバーの休憩時間に急速充電を行なうことで行程を伸ばすことも可能だ。
いっぽう、eアクトロスは近距離・地場用の大型BEVトラック。ベースはIAA国際商用車ショー2016で披露されたコンセプト「アーバンeトラック」で、航続距離は200km以上を確保。2軸または3軸の単車で従来型アクトロスと同等の積載量を確保するという。
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