三菱重工業が、国産初となるジェット旅客機「スペースジェット」の開発を凍結する。
政府も開発に約500億円を拠出し、事実上の国策として進めてきたプロジェクトだ。なぜ失速したのか、検証が不可欠だ。
新型コロナウイルスの感染拡大で需要を見込めなくなったのが直接の原因ではある。ただ、その前に設計や生産のトラブルが続発し、納期が6度も延期されていた。
量産に必要な型式証明の取得に向けた事務作業は続け、需要の回復を待つという。とはいえ、開発費が大幅に削減されて試験飛行すらできず、納期の見通しを示せない状況だ。
原因は、自らの技術力や管理能力への過信にあるのではないか。
三菱重工は自衛隊機を開発し、民間機の主翼や胴体を製造している。しかし、設計に従って部品を作る下請けと完成機メーカーでは、求められるものが異なる。
現在の旅客機開発は国際分業体制で進められ、完成機メーカーには海外の部品メーカーをたばねる力量も求められる。今回の開発では主要部品の設計や仕様の変更が相次いでおり、司令塔としての能力が不足していたのは明らかだ。
開発体制にも問題があった。政府や三菱重工は当初から自主開発路線にこだわり、自社の人材で開発を進めようとした。型式証明の取得に手間取り、ノウハウを持つ外国人材主体に切り替えたが、遅れを取り戻せなかった。
国籍や性別、年齢などにかかわらず優秀な人材を集めなければ、国際競争には打ち勝てない。人材活用のあり方を考え直すべきだ。
三菱重工は、以前にも同様の失敗を犯している。2011年に大型客船の製造を受注したものの、納期が遅れて損失を出した。
過去の実績をもとに対応できると判断したが、発注元の要求に応えられず、製造現場が混乱した。
当時の社内調査では、自社の能力を過信した楽観的で拙速な受注判断や、事業部門任せの経営体質が批判された。教訓を生かせなかったのだろうか。
航空産業は裾野が広く、波及効果が大きい。このまま撤退すれば、政府や三菱重工の責任は重い。問題点を洗い出し、今後につなげる必要がある。
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