前月(7月)まで11カ月連続で日経平均は月末に安く引けるという状況にあった。そこに根拠はあっても確固たる理由があるわけではなく、だからこそアノマリーであるわけだが、偶然とはいえこれだけ続くと投資家としても無視はできない。これは情報武装された機関投資家であっても同じ土俵に立つ。
前日の米国株市場では長期金利の低下を背景にハイテク株が買われたものの金融株や景気敏感株の旗色が悪く、主要株指数は高安まちまちの展開だった。いわゆる上げ潮ムードには遠い。したがって東京市場も方向感がつかみにくく、気迷いの状態ならきょうの日経平均は下に行くというのが元来予想される地合いであった。実際、朝方は100円弱のマイナスでスタートした。ところが、その後は妙に下値が堅く、前場後半は下げ渋る展開で一時はプラス圏に浮上する場面もあった。そして後場寄り早々に再びプラスゾーンに切り返し、今度はジリジリと上値を慕う展開に。ここで相場の波紋が変わった。
市場では外資系の先物買いが話題となっていた。マーケット関係者によると「午後1時過ぎにクレディ・スイスが先物に強烈な買いを入れてきた。月末安アノマリーを想定して売り建てていた分のおそらく買い戻しと思われる」(ネット証券マーケットアナリスト)という。先物主導の上昇で日経平均に浮揚力が働いたが、この背景にはクレディ経由で分厚いショートポジションの踏み上げがあったというのが真相のようだ。
1年ぶりに月末安アノマリーが覆されたが、その戦果はそれなりに大きかったといえる。日経平均が300円の上昇でフシ目の2万8000円大台乗せを果たし、しかも3月から続いていた月足陰線にもピリオドを打った。前日時点で日経平均の終値は2万7789円と月初とほぼ同水準に位置しており、つまり月末安アノマリーが継続すれば必然的に月足も6カ月連続で陰線を引く可能性が高かった。仮に月末安が月初安に後ズレしただけとしても、前方視界不良の8月を陽線で切り抜けたことは少なからずポジティブ要素として投資家の脳裏に刻まれそうだ。MSCIのリバランスがあったとはいえ、売買代金も久々の3兆円台乗せ。3兆円を超えた日は最近ではオプションSQ算出日だった7月9日以来となる。
下値が固かった背景には政局に変化が出たことを挙げる声も多い。菅首相は二階氏の幹事長交代を本人の意向に沿う形で行い、これを“目玉”とする自民党役員人事を9月上旬に行う方針と伝わったが、これがプラスに働いたとする見方だ。しかし一方で、市場では「二階氏はもともと息子に任せて退く意向であったから、苦渋の決断があったわけではない。いいタイミングでカードを切ったということ。菅氏に恩を売ると同時に、党役員任期3年を主張していた岸田氏潰しの布石を打った。非常にしたたか」という声も出ている。相場はどこかのタイミングで政局不安を織り込み、ポジティブ材料に変えられる時が来るのか否か。予想は困難だが、9月相場は選挙モードが上値追いの活力になる可能性はある。
個別ではサムスンの23兆円設備投資増強の動きを背景に野村マイクロ・サイエンス<6254>を引き続き注目。また、デジタル庁発足でテーマ性を再燃させるDX関連ではシステム情報<3677>や、さくらインターネット<3778>の存在に光が当たる可能性がある。更に足もと復活色を強めるマザーズ市場をにらんで、マザーズ銘柄にも目を配っておくところ。底値圏からのリバウンド期待が膨らみ始めたAI関連株では、ホットリンク<3680>やデータセクション<3905>が挙げられる。同じくマザーズ市場で強い銘柄につく作戦であれば、トレンダーズ<6069>の1000円トビ台は魅力がある。
あすのスケジュールでは、デジタル庁が発足。4~6月期の法人企業統計、8月の新車・軽自動車販売台数などが発表される。海外では4~6月の豪GDP、8月の財新中国製造業PMI、7月のユーロ圏失業率。また、米国では8月のADP全米雇用リポート、8月の米ISM製造業景況感指数への注目度が高い。(銀)
最終更新日:2021年08月31日 19時00分
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