国際オリンピック委員会(IOC)は6日、東京五輪・パラリンピックに参加する各国・地域の選手団に米製薬大手ファイザー社と独製薬企業ビオンテック社が共同開発した新型コロナウイルスワクチンを提供すると発表した。日本にも提供され、7月23日の五輪開会式までに全選手が2度接種を終えることが可能となる。くしくも同日、都内で行われたボートのアジア・オセアニア大陸予選で新型コロナの陽性者が発覚。外部との接触を遮断する「バブル方式」での運営に限界が見えた中、IOCは大会開催へ“最後の一手”を打った。
ワクチン提供はファイザー社のアルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)が持ちかけたものだった。4月中旬に訪米した菅義偉首相との電話会談で無償提供の申し入れがあり、日本政府とIOCが協議して実現したという。接種は義務化しないが、2回接種を受ける時間をつくれるように今月末にも各国・地域への供給を開始する。5日付の米紙ワシントン・ポスト(電子版)のコラムで、五輪開催都市から“搾取”する姿を「ぼったくり男爵(Baron Von Ripper―off)」と酷評されたIOCのバッハ会長は「安心、安全な大会実現と開催国への連帯を示す新たな方策だ」と声明を発表した。
丸川珠代五輪相によると、日本に関しては政府がファイザー社と契約しているワクチン枠とは別。日本選手団は「選手が1000人程度、監督・コーチが1500人程度」が対象になるという。また、日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長は「大変ありがたい。可能であれば接種を進めていきたいと丸川五輪相にお願いした」とコメント。丸川氏に「接種の優先対象者や、対応する医療従事者の活動に影響を生じさせない形で進めることが前提」と伝えたと明かし、選手らへ接種希望調査について「各競技団体で対応するのが現実的ではないか」と考えを述べた。
くしくもこの日は“バブル崩壊”の危機があらわになっていた。五輪会場となる東京・海の森水上競技場で開催中のボートのアジア・オセアニア予選で、スリランカのチーム関係者1人が5日、陽性反応を示したことが判明。出国72時間前までに行ったPCR検査や今月1日に日本に入国した際の抗原検査、さらに4日の抗原検査でも陰性で、自覚症状もなかったが、保健所の指示で隔離。同国の他のメンバーは全員陰性が確認されたものの、濃厚接触の疑いがあるパラ種目の2選手は6日の予備予選欠場を余儀なくされた。
大会は外部との接触を遮断する「バブル方式」を採用していた。昨年からテニスの4大大会やNBAなどで採用され、コロナ下での新たなスタンダードとなっていたが、変異株急増の影響か、事態は急変しつつある。海外ではバブル方式のフェンシングやレスリングの国際大会でコロナ感染者が頻発。同じ方式で開催される東京大会は選手・関係者の数が五輪で約1万人、パラリンピックで約4000人と規模が桁違い。ワクチン接種を想定しない対策で感染を防げるのか、疑問の目が向けられていた。
その中で選手同士の感染リスクを減らせるワクチン提供は、大会開催への“最後の一手”とも言える。もっとも、接種でリスクがゼロになるわけではなく、丸川五輪相も「選手と一般市民が絶対に接触しない動線や移動手段の確保は変わらずに行いたい」と話した。さらに、接種を巡る混乱も必至。バッハ会長は大会開催へなりふり構わない姿勢を見せているが、「安心・安全」はまだ保証されたわけではない。
▽東京大会とワクチン 今年3月にIOCのバッハ会長が中国からの申し出を受けて、参加選手に同国製ワクチンを提供すると突然発表。4月には日本政府が参加選手にワクチンの優先接種を検討と一部で報じられ、世論の大きな批判を浴びる結果に。同下旬には韓国やオーストラリアで参加選手の優先接種が発表された。
▽バブル(Bubble) スポーツ大会やイベント開催時の感染防止策として、参加者と外部との接触を遮断するために設定される隔離空間。開催場所を大きな泡(バブル)で包み込むイメージから名付けられた。昨夏にNBAがフロリダ州にあるディズニーワールドの施設を借り切り、検査や社会的距離の確保などを徹底して集中開催したのを機に、多くの競技で採用されている。
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