新OSの目玉は,ユーザーインタフェース(以下,UI)の大幅な変更やネットワークサービスとの連携強化であるが,ゲームに関する機能強化や,Androidアプリの実行機能など,ゲームに直接関わる要素も多い。そこで本稿では,Windows 11でゲームがどうなるのかを中心に,発表の内容をまとめてみたい。
UIを一新,新しいウィジェットも実装
Windows 11のパッと見て分かる違いは,UIの変更だ。タスクバーのアイコンは,スタートボタンも含めてバーの中央付近にまとめて配置されるようになり,いかにも今どきのデザインといった印象を受ける。
もっともUIに関しては,どのような変更を加えようとも,賛否が巻き起こるの確実である。Windows 11には,新しいウィジットやAIを用いたニュースフィードといった機能も実装されるのだが,これらも好みが分かれそうだ。
一方のネットワークサービスは,現在,Googleが大きなシェアを持つが,Windows 11ではMicrosoftのネットワークサービスをメインに据えて,人気のオンラインコラボレーションツール「Microsoft Teams」などをOS本体と統合したうえで,スマートフォンとの連携も強化して,Googleに対抗しようとしているようだ。
Windows 11ではゲームがより高速に?
DirectStorageに関しては,4Gamerでも報じたことがある(関連記事)ので,覚えている人もいるだろう。CPUを介さずに,GPUが直接PCI Express(以下,PCIe)接続のストレージ内にあるデータをアクセスする技術だ。
現在のPCでは,GPUがストレージ内データを必要とする場合,データ転送には必ずCPUが介在する。DirectStorageは,CPUの介在を不要にする技術である。DirectStorageを使えば,GPUとストレージ間のデータ転送はPCIeの帯域幅をフルに使えるので,GPUが極めて高速にストレージのデータを読み取ることが可能になる。これにより,たとえばテクスチャを動的にストレージからロードすると行った動作が高速になるはずだ。
実のところDirectStorageは,据え置き型ゲーム機であるXbox Series X/Sに,「Xbox Velocity Architecture」のひとつとして先行実装されている。2020年にMicrosoftは,PCにもDirectStorageを実装すると表明しており,NVIDIAやAMDといったGPUメーカーは,その準備を進めている。
PCへの投入のタイミングは,以前から2020年の後半リリースを予定していたWindows 10の大型アップデート「Windows 10 21H2」のタイミングになると予想されていたが,Windows 10 21H2がWindows 11となったことで,スケジュール面では予定どおりの登場とも言える。
Xbox Series Xで先行していることもあり,ゲームデベロッパ側の準備はすでに整っている。DirectStorageは,ゲームを快適にしたうえでグラフィックスをリッチにできる可能性を秘めているので,Windows 11の登場を機に,ゲームが大きく変わる可能性があるだろう。
Auto HDRでグラフィックスがより美しく
Windows 11はXbox Series X/Sと互換性を持つDirectX 12 Ultimateをフルサポートする。それに加えてMicrosoftは,「Auto HDR」をWindows 11でサポートすることを明らかにした。
Auto HDRもXbox Series X/Sに先行して実装済みの技術なので,同ゲーム機を持っているゲーマーなら体験済みかもしれない。HDRをサポートしていないDirectX 11タイトルを,擬似HDR化するのがAuto HDRだ。
Auto HDRは,Xbox Series X/Sのユーザーにも非常に好評と聞いているので,期待できるのではないかと思う。
Xboxアプリがより充実
クラウドゲームサービスもシームレスに
Windows 10の「Xboxアプリ」が,Windows 11では大幅に強化されて,多くの機能を取り込んだものに進化する。Windows 11上のXboxアプリは,Microsoftのゲーマー向けサブスクリプションサービス「Xbox Game Pass」への統合が進んだうえ,クラウドゲームサービスである「Xbox Cloud Gaming」へのアクセスが容易になり,クラウドゲームをシームレスにプレイ可能になるそうだ。
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Xbox Game Pass自体は目新しいものではないが,クラウドゲームサービスは,NVIDIAの「GeForce NOW」やGoogleの「Stadia」がが先行していることもあり,やや影が薄い印象があった。Windows 11に統合されることで,これまでより存在感を増してくるかもしれない。
全面的にリニューアルされたMicrosoft StoreでAndroidアプリをサポート
Windows 11で大きくリニューアルされるもののひとつが,アプリストアの「Microsoft Store」だ。Windows 11におけるMicrosoft Storeアプリには,全面的に改修が加えられ,役割もより強化されるという。
たとえば,Microsoft Teamsや統合開発ツールである「Visual Studio」,Adobe製アプリのフロントエンドである「Adobe Creative Cloud」,そしてオンラインコラボレーションツール「Zoom」といったメジャーなアプリが,Microsoft Storeを通じて提供されるようになるそうなので,これまでよりもMicrosoft Storeにアクセスする機会が増えるだろう。
それ以上に重要なのは,Windows 11上でAndroidアプリを実行できるようになり,Microsoft Store上でAndroidアプリを検索できるようになることだ。見つけたAndroidアプリは,Amazon.comが運営するAndroidアプリストアの「Amazon Appstore」から入手できるという。
Amazon Appstoreを利用することから,Googleのクラウドサービス――具体的に言えば,Android開発者サービスを通じてアクセス可能なサービス――に依存しないAndroidアプリに限定されると想像が付く。
このAndroidアプリのサポートは,MicrosoftとIntel,Amazon.comが協力して提供されるそうだ。Intelは,x86系CPU上でArmのコードを実行する「Intel Bridge Technology」を提供し,Amazon.comは同社が展開するアプリストアで協力するという仕組みだ。
Amazon AppstoreにあるAndroidアプリの多くがWindows 11上で動作するようになるのであれば,数多くのAndroid用ゲームタイトルを,Androidエミュレータを別途インストールすることなく,PC上で楽しめるようになりそうだ。
どの程度の実用性があるのかは,使ってみないとなんとも言えないが,十分な性能が得られるのなら,出先ではスマートフォン,自宅ではPCでAndroidゲームをプレイすることが可能になるだろう。そうなると,ゲーム用にAndroidタブレットを用意したり,Androidエミュレータを導入することは不要になるかもしれない。ゲームチェンジャーになる可能性を秘めた機能となりそうだ。
Windows 11に備えて準備したいゲーマーは?
基本的に,Windows 11と互換性のあるWindows 10搭載PCを使っているユーザーは,無償アップグレードでWindows 11に移行できる。追加の費用といったものはとくに必要ないので,OSの更新自体にかかるコストを心配しなくていい。Windows 8.x/7ユーザーが,Windows 10へと一定期間無償アップグレードできたのと同じようなものだ。
一般ユーザーに対するWindows 11の提供開始時期は,まだ明らかになっていないが,Microsoftは2021年後半のリリースを目処としているという。なので,まだ慌てる必要はないし,とくにゲーマーの場合,プレイしているゲームや使っているゲーマー向け周辺機器に互換性面での問題が出ないとの限らないので,すぐにでもWindows 11に飛びつくという人は少数派だろう。
とはいえ,DirectStorageやAuto HDRといった技術をPCで早く利用してみたいゲーマーもいるだろう。そういうゲーマーは今から準備しておくことをお勧めする。
明らかとなっているWindows 11の最小ハードウェア要件は,かなりハードルが低めだ。すでに日本語のガイドも用意されている。
■Windows 11の最小要件
- CPU:1GHz以上で2コア以上の64bit互換プロセッサまたはSoC(System-on-a-Chip)
- メインメモリ容量:4GB
- ストレージ容量:64GB以上(※起動ディスクがGPTでフォーマットされている必要がある)
- システムファームウェア:UEFI対応,セキュアブート対応
- TPM:TPM 2.0
- GPU:DirectX 12以上(WDDM 2.0ドライバ)に対応
- ディスプレイ:9インチ以上で8bitカラー,720p(解像度1280×720ドット)
- インターネット接続とMicrosoftアカウント:Windows 11 Home Editionを初めて使用するとき,デバイスのセットアップを完了するには,インターネット接続とMicrosoftアカウントが必要。
また,MicrosoftのWindows 11製品情報ページでは,「PC正常性チェック」というデスクトップアプリが提供されており,自分のPCがWindows 11のハードウェア要件を満たしているのかを調べられる。気になる人はチェックしておくといいだろう
落とし穴になりそうなのは,Windows 11で「TPM(Trusted Platform Module)2.0」またはTPM 2.0相当のハードウェアセキュリティ機能を搭載するのが必須になっている点だ。少なくとも,2015年以降に製造されたPCやCPUとマザーボードならば,ほとんどにTPM 2.0が搭載されているのだが,UEFI(BIOS)の設定で無効化されていることも多い。
また,近年のPCやCPUには,TPM 2.0相当の機能が「Firmware-based TPM」(fTPM)として実装されている。fTPMを利用するには,IntelプラットフォームのPCなら「Intel Platform Trust Technology」,RyzenプラットフォームのPCならば「AMD fTPM」の有効化が必要だ。
これらがUEFIの設定で無効になっていると,Windows 11と互換性がないPCと判定されてしまう。PC正常性チェックアプリで非互換になった人は,UEFIの設定を調べてみることをお勧めする。
そのうえで,ゲーマーがDirectStorageを含めたDirectX 12 Ultimateの全機能を利用するためには,DirectX 12 Ultimate対応のGPUが必要になる。NVIDIAの場合はGeForce RTX 20/30シリーズ,AMDの場合はRadeon RX 6000シリーズが必要だ。
なおAuto HDRは,すでにWindows 10の開発者向けプレビュー版「Insider Preview」で提供されており,この機能を使うだけなら,DirectX 12 Ultimate対応GPUは必要ないことが分かっている。そのため,HDR表示対応ディスプレイさえあれば,ほとんどのゲーマーがAuto HDRを体験できるはずだ。
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