月額2980円で自社エリア内でのデータ通信が使い放題という、圧倒的なコストパフォーマンスで携帯電話事業への本格参入を果たした楽天モバイル。ですがネットワーク品質に強みを持つ携帯3社が相次いで、同じ月額2980円で20GBのデータ通信が利用できる新料金プランを打ち出したことで一転して窮地に立たされてしまいました。
そこでこれら3社のプランに対する楽天モバイルの対抗策が注目されていたのですが、その答えとして同社が2021年1月29日に発表したのが新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」です。これは「Rakuten UN-LIMIT V」の後継となるプランであり、楽天モバイルの特徴にもなっている1プランを維持したのですが、内容は従来と大きく変えてきているようです。
とりわけ大きく変わったのは、使用した通信量に応じて料金が変わる“段階制”のプランになったこと。料金の上限は従来通り月額2980円で、自社エリア内でのデータ通信をいくら使ってもそれを上回ることはないのですが、20GB以下の場合は月額1980円、3GB以下では月額980円、そして1GB以下の場合はなんと0円というかなり思い切った料金設定をしています。
もちろんKDDIのローミングエリア内では従来通り5GBまでという制限は維持されていますし、1GB以下で0円になるのは1回線目のみで、2回線以降は1GB以下でも月額980円がかかるなどの制約はあります。また実際の料金にはユニバーサルサービス料(2021年1月からは3円)がかかることから、完全に0円になるわけではないでしょう。
ですがキャンペーンなどの適用がなくても1GB以下であれば通信量がかからないというのはかなり画期的であることは確かで、多くの関心を集めたようです。3社への対抗のためとはいえ、なぜ楽天モバイルはこのような料金プランを提供するに至ったのでしょうか。
最大の理由は、現在無料で楽天モバイルを利用しているユーザーを逃さないためではないかと考えられます。楽天モバイルは300万人に1年間無料で同社のサービスを利用できるキャンペーンを実施していますが、同社が本格サービスを開始してから1年が経過する2021年4月には、それが終了するユーザーが出てきます。
元々楽天モバイルの契約者は、無料キャンペーンで「タダで使える」ことを目当てにサブ回線として契約した人が多いと見られており、無料期間の終了とともに解約者が続出するのでは?という懸念は以前からなされていました。それに加えて携帯3社がネットワーク品質の高さを武器に同額の料金プランを投入してきたことで、楽天モバイルをメインで利用しようとしていた人も、ネットワーク品質を理由として他社の新料金プランに相次いで乗り換えてしまう懸念が出てきたのです。
もちろん楽天モバイルのネットワーク品質が3社に追い付けばそうした懸念は減るでしょうし、同社は2021年の夏頃までに人口カバー率96%を実現するとしています。ですがそれでも、既に99%以上を達成している3社に敵わない状況はしばらく続くでしょうし、同社は1GHz以下のいわゆる「プラチナバンド」を持たないことから、楽天モバイルの代表取締役会長兼CEOである三木谷浩史氏が、都心であっても裏路地などで「1年使って2回くらい入らないことがあった」と話すなど、エリアカバーの面で不利な状況にあるとしています。
少なくとも短期的にはエリア面で不利な要素を持つ楽天モバイルが、無料キャンペーン終了後に他社の草刈り場にならないためには、無料を目当てに使っているユーザーを手放さないことが求められていたのは確かでしょう。そこで1GB以下の利用者は月額0円にするという施策を打ち出し、制限があるとはいえ無料を維持することで顧客のつなぎ止めを狙ったのではないかと考えられるわけです。
ただ無料で使うユーザーが増えれば、収入は増えないので経営は大丈夫か?と心配する人も多いかと思います。三木谷氏は新料金プランの導入によって、黒字化を実現するための契約数目標が従来の700万から増えるとはしたものの、小容量でより安価に利用しやすくなったことから解約率も下がり、ユーザー獲得のためCMなどを展開するコストも減らせることから、黒字化できるタイミングは変わらないと話していました。
楽天はグループ全体で多くの事業を持っており、楽天モバイルを起点として楽天グループのサービスをより多く使ってもらうことで売上向上につなげられるというのも、こうした料金の実現につながっているようです。また楽天モバイルは、今後自社の完全仮想化ネットワーク技術を活用した「Rakuten Communications Platform」を海外の携帯電話会社などに販売する計画を立てており、直接的な通話・通信料以外の収入を見込んでいることも、今回の料金施策には影響しているでしょう。
ただ1GB以下とはいえ0円という料金は、楽天モバイルのビジネス的に問題がなくても公正競争の観点から問題が出てくるように思えてなりません。実は通信量が1GBという料金プランは、スマートフォン初心者を狙い携帯大手やMVNOが意外と多く手掛けているものでもあり、例えばオプテージの「mineo」が発表した新料金プラン「マイピタ」の1GBプラン(音声通話付き)で月額1180円、ジュピターテレコムの「J:COM MOBILE」が発表した新料金プランでも月額980円と、当然のことながら有料です。
ですがRakuten UN-LIMIT VIは1GBまでなら0円なのですから、エリア品質に差があるとはいえ他社の1GBプランは料金面で全く勝負になりません。NTTドコモの「ahamo」などでも、MVNOからデータ通信の接続料と比べ料金が安すぎると批判の声が挙がっていましたが、0円ではもはや競争ができるかどうかという次元を通り越してしまっているのです。
そうしたことから発表会では、この料金に関して独占禁止法に抵触する可能性なども指摘されていましたが、楽天モバイルの代表取締役社長である山田善久氏は、「総務省にも情報は伝わっている。法的に問題ないと考えている」と話しています。ですが、とりわけ大手各社の料金引き下げで厳しい状況にあるMVNOから「0円では競争ができない」という声が総務省に挙がってくるのは時間の問題のような気もしますし、そのとき総務省、さらには楽天モバイルがどのような対応を取るのかは非常に気になるところです。
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