ルネサス エレクトロニクスは3月30日、半導体の生産を担当するルネサス セミコンダクタ マニュファクチュアリングが茨城県ひたちなか市に所有する那珂工場で3月19日に発生した火災について、詳細と今後に関する説明会を開催した。
ルネサスは火災から2日後の3月21日に火災の詳細や今後の影響に関する説明会を行なっており、今回の説明会はその2回目となる。
ルネサス、半導体工場火災で1か月後に自動車メーカー向け出荷に影響 影響を受ける製品の2/3が自動車向け
被害を受けた製造装置は12台増えて23台に、大多数は4月中に代替の調達が可能に
ルネサス エレクトロニクス代表取締役社長兼CEO 柴田英利氏は、「前回の繰り返しになるが、那珂工場の火災により多くの皆さまにご心配を掛けていることを心よりお詫びしたい。近隣の皆さま、取引先、警察、消防の方々などにも申し訳ないと思っている。また、関係各位には復旧に向けてご協力をいただきお礼を申し上げたい」と述べ、関係各所への謝罪の言葉から説明を始めた。
その上で、現時点で生産が100%に戻るまでに生産のボトルネックになっている4点を挙げた。
1.クリーンルームでのハリの補強は3月29日に完了、通常は2週間だが3日間で。
2.天井に敷き詰めるフィルターのようなサプライ品、すすによる汚れ、洗浄の作業、作業が続いているが概ね順調に進捗
3.WIP(Wafer In Process):作業途上のウェハーのダメージの確認、仕掛品は3/4程度が利用可能である
4.製造装置の調達:1F製造装置全体(390台弱)のうち90%強の確認が完了している。残り10%は動作を確認している。
柴田氏は「クリーンルーム自体の再開に向けては順調に作業が進んでいる。1か月以内の目標が、達成確度が大きく高まっている」と述べ、1回目の説明会で説明した工場再開に向けたロードマップにしたがって、順調に復旧が進んでいると説明した。
出火の原因解明については、前回の説明会後に外部専門家による調査や消防の再調査などが行なわれたとのことだが、まだ詳細は明らかになっておらず、原因の解明までにはもう少し時間がかかるとした。
製造装置の調達の進捗状況について柴田氏は「前回の説明会では11台の製造装置が必要であるとした。しかし、その後N3棟の1階の製造装置の状況の確認が進むにつれて12台追加され、23台の手当が必要だということが分かってきた」と述べ、前回の説明会の時点で必要とされていた置き換えや修理などが必要な製造装置が、当初の11台から12台増えて23台になったと説明した。
納期に関しても緑色(上記写真参照)で示されたものが4月末までに、黄色(同)が5月中旬から下旬にかけて、そしてピンク(同)が6月までに那珂工場に納品される予定になっているという。
白に関しては現時点ではめどが立っていないが、「随分と先になるという訳ではなく、そんなに先の日程ではないタイミングでの納入が期待できる状況。5月や6月に予定されているものも、1日でも2日でも早く納入を求めている」と述べ、全体的に前倒しできるようなタイミングで製造装置の納期を早めてもらえるように装置メーカーなどに依頼を続けているとした。
工場内部では片付けが進み、被害を受けた製造装置の入れ替え作業を進め1か月以内の生産再開が現実的に
生産再開まで、どのようなタイミングで立ち上がっていくのかを模式図にで示し、前工程(ウェハーを製造する工程のこと)に60日、後工程(ウェハーからチップに切り出したりする工程のこと)に30日かかることを考慮に入れると、クリーンルームが予定通り1か月以内に復旧し、火災から30日後に生産が開始したとすると、1か月後に仕掛品(すでに途中まで製造してあった製品)の生産が完了しはじめ、火災から約100日後には100%の状態に戻ると想定しているという。
このため、顧客への影響としては約1.5か月~2か月になる見通しとのことだ。
すでに外部のファウンダリーとも話を進めており、代替生産について内製可能な分に関しては1.5か月分を代替生産する前提で82%、2か月分を代替生産する前提で73%、外部で生産可能な分に関しては1.5か月分を代替生産する前提で100%、2か月分を代替生産する前提で90%分を確保することが可能になっているという。
柴田氏は「生産が一定期間止まったうちのかなりの部分は代替生産を通じてカバーすることができ、那珂工場が順調に立ち上がれば、かなり部分がキャッチアップできる」と述べ、早期の復旧と代替生産の両方を組み合わせることで、当初の予想よりも対応できない部分は減る見通しだと説明した。
売上への影響見通しに関しては「前回の説明会では170億円だと説明したが、より正確に言うと130億円になる。170億円のうち30億円はN3棟ではなくほかの工場の分を計上しており、さらにウェハーテストの売上10億円が含まれていた。1.5~2か月分となり、そこから最終製品在庫の20億円分を引くと、約175~240億円となる見通しだ」(柴田氏)とした。
仮に装置の納入がもっと伸びればさらに増える可能性があり、逆に代替生産が寄与すると第3四半期と第4四半期には影響はより小さくなっていくだろうとした。
なお、火災現場に関しては、火災の影響を受けた装置はすでに搬出されており、工場内の至るところに足場が組まれている現状だという。装置の作業もそうした足場を避けながら行なう必要があり、1週間かかっても終わっていないのはその影響だということだった。また、火災で発生したデブリなどはすでに搬出が終わっていることなどが説明された。
自動車産業への影響は1.5か月~2か月分になる見通し、代替生産を増やし影響を最小化
柴田氏の説明後にはルネサス エレクトロニクス 執行役員 兼 CFO新開崇平氏、ルネサス エレクトロニクス 執行役員常務 兼 生産本部長 野崎雅彦氏の2名が加わって質疑応答が行なわれた。
――製造装置のリプレースに関する表の見方をもう少し教えてほしい。
柴田氏:5台中2台というのは、5台あった装置が2台置き換える必要があるという意味だ。
――影響が大きな特定製品はあるのか?
柴田氏:SoCに関しては6月にならないと納入されない装置の影響を受ける。また90nnmのアナログ半導体も影響を受けるほか、新世代のマイコンでも影響が出る可能性がある。
――外部のファウンダリーを利用することによる第3四半期/第4四半期の利益への影響は?
柴田氏:現時点では確たることは言えない、通常の商取引に比べて利幅が少ないのかなど確たることは言えない。外部のファウンドリーからは通常ではない価格でなければできないという通知は受けていない。
新開氏:利益面への影響という観点では1次利益、60%強ぐらい。一時費用の観点では在庫を少なくした減価償却や、修繕費などで2桁億円の一時費用が発生すると見込んでいる。
――経産省が国内の半導体メーカーや装置メーカーと会合を行なったが、ルネサスとはどのような話をしたのか?
柴田氏:私は第1回の会合は火災対応を優先して欠席している。新開が出席したので新海からコメントをしてもらう。
新開氏:顧客サイドなど沢山のメンバーが参加している。各社さまの政策への提言を行なっていた。弊社としては需要サイドを喚起する政策をお願いしたいと述べた。
――生産再開への目処は?
柴田氏:製造装置の納期次第だが、日々変わっている。伸びるということはないと考えているが、ベンダー側は最初は慎重な納期を言ってくるので、5月中旬だったものが4月になるということが起きている。このため悲観はしておらず、比較的早い時期にそろうのではないかと考えている。1か月以内という生産再開のターゲットからそれほどずれることなく再開できるのでは。
――被害装置の台数が増えたのはなぜか? また、代替生産に関してはありとあらゆる手を打つのか? 例えばプロセスの一部だけを外部に委託するとかはあるか?
柴田氏:前回お話しした時に11台以外にというのは認識していなかった。装置の被害が広がった大きな要因は、すすによるものと、塩素ガスを中心としたケミカルが要因。ありとあらゆる手を打つのは、大きくいうとイエス。ただし、半導体工程で一部だけを出して、また戻してくるのは現実ではない。
野崎氏:11台というのは焼けてしまった装置の数。装置メーカーに来てもらって確認した結果、使えそうにない装置がでてきた。すすによる影響、塩素ガスが発生したので、それによる腐食が原因。
――外部委託を確保できたというメッセージだったが。
柴田氏:非常にタイトな状況の中で、今般の事情を汲んで協力していただいている。協力していただいたところに迷惑がかかるため詳細は言えない。概ね前工程は問題なく、後工程に関してはこれからだ。前向きに情報共有して、代替生産の効果がフルに発揮できるように考えている。通常では想定できないような、今回の火災がもたらす顧客や経済全体への影響を鑑みて、外部のパートナーが調整してくれた。
――クルマの生産側では物不足でタイトになっている。在庫を融通するなど、協力体制のようなものがあるのか?
柴田氏:われわれができることは極めて限定的。顧客サイド、業界団体等でそんな取り組みが進んでいくことに期待したい。必要な情報の提供やサポートはするつもりである。
――すすや塩素ガスなどの、品質への影響についてはどう考えているか?
野崎氏:そのリスクに関してはわれわれも神経質になっている。すすの清掃等をやるが、清掃をやりながらクリーンルームの塩素濃度などを測定している。測定値を見つつ、清掃方法を変えながらやっている。また、循環空調をすでに動かしている。クリーンルームの中のガスを吸却すべく、空調にフィルターを追加している。清掃と空調でのフィルタリングの2つを同時進行でやっている。
――ダミーウェハーを入れてテストする可能性は?
野崎氏:ダミーウェハーを流す必要はないと考えている。
柴田氏:クリーンルームの清掃は、火災後20日で終了する予定だ。
――保険の適用については?
新開氏:物理保険と財物の保険があり、一定程度カバーされる。損害の検証中なので、現時点では確定したことは言えない。
――生産で自動車を優先するのか?
柴田氏:顧客のビジネスの性質、規模という要因と、生産に起因する要因の両方から、もっともフェアな配分を決めていく。種類規模でいうと、自動車の場合には雇用の大きさから経済波及効果などがある。しかし規模は小さいけれど、ヘルスケア製品なども現在の状況に鑑みれば重要ではないとは言えない。どのアプリケーションを優先すべきかは、フェアに決めて行きたい。
――現段階で火事の原因に、稼働率を上げていたことが影響していなかったのか?
柴田氏:現時点では不明。
野崎氏:装置メーカーと議論は進めている。発火した装置は分かっているが、その原因というところまでは結論にいたっていない。
――N3棟の2階は無事だったと聞いているが、2階から先に動かすことはできないのか?
野崎氏:現実には2階にも配線工程、1階にも露光工程が配置されており、1階と2階を行ったり来たりしながら製造している。このため、2Fだけを動かすと仕掛が増えるだけになってしまう。
――火災の原因は過電流の可能性が高いということだったが、ブレーカー以外の対策を今後増やす可能性はあるか?
野崎氏:現状ではブレーカーのみである。今後、後付けになる可能性は高いが何らかの対策は検討している。
――自動車の完成車への影響、どの程度の規模になるか?
柴田氏:先ほどの図で示したように、4月の下旬からサプライがとまる。現時点では1.5か月相当~2か月相当。日夜努力はしているが、その程度の影響になる。
――台数に関しては?
柴田氏:把握していない。
――火災の原因は不明とのことだが、火災の原因が過電流となっているが工場ではフル稼働以上だったのか?
野崎氏:過電流という話が稼働率と影響するかと言えばそうではない。当時の稼働率は90%を超える程度に上がっていたことは確か。
――今後N3棟の生産能力を100%以上にする可能性はあるか?
野崎氏:設備能力を増やせばできるが、現在やろうとしているのは火災で失われた部分を復旧することをターゲットにしている。火災前よりも製造装置を増やすということは考えていない。
柴田氏:買い換える装置は世代が新しいものが入っている。ものによっては1.5倍ぐらいの生産能力があるものもある。それにより生産能力が上がることはあり得るが、それをターゲットにしている訳ではない。
――調達する製造装置というのは全てが新品ということになるのか?
柴田氏:とてもよいご質問だ。4月~5月に調達するものの多くは既存品が中心になる。例えば、メーカー自身のラボに置いてあったものなどを調達してくることになる。6月に調達予定の装置に関しては新規の製造装置となる。納期が決まっていない装置は既存品になる見通しで、どこにあるかは目処は立っているが、それが弊社の工場とスペックが適合するか、あるいは装置にダメージがあって部品交換の必要性があるのかなどを見て行く必要があり、一部部品交換する必要があればそのリードタイムが必要になり、それで納期が決まってくる。
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