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「ビジネス需要は戻らない」 5100億円赤字見通しのANAホールディングス、コスト削減と新需要獲得へ - ITmedia

 新型コロナウイルスの打撃を受けるANAホールディングス(HD)が、航空需要の変化に対応し、危機を乗り切るための事業構造改革を打ち出した。需要の変化を踏まえてビジネスモデルの変革に取り組むほか、機材の削減などによる大幅なコスト削減を図る。2021年3月期は過去最大の5100億円の最終赤字となる見通し。事業拡大から転換し、「強靭な企業グループに生まれ変わる」ための施策を急ぐ。

ANAホールディングスが事業構造改革を発表した(写真提供:ゲッティイメージズ)

国際線の需要低迷、5100億円の最終赤字見通し

 10月27日に発表した20年4〜9月期の連結業績は、売上高が前年同期比72.4%減の2918億円、営業損益が2809億円の赤字(前年同期は788億円の黒字)、純損益は1884億円の赤字(同567億円の黒字)だった。

 新型コロナの感染拡大以降、旅客需要が激減。国内線では緊急事態宣言解除後の6月以降、徐々に回復傾向にあるものの、国際線の需要は依然として低迷している。主力のANAブランドでは、国内線の運航規模は4〜6月に前年同期比73.3%減だったが、7〜9月は49.3%減まで回復。一方、国際線の4〜9月の運航規模は前年同期と比べて84.4%減だった。旅客収入は、国内線が78.6%減の789億円、国際線が94.2%減の196億円に落ち込んだ。

 運航規模の抑制によって燃油費や空港使用料などの変動費や人件費などの固定費を削減。3330億円のコスト削減策を実行したが、売上高の大幅な落ち込みを補うことはできず、赤字に転落した。

20年4〜9月期の事業別の動向(出典:20年4〜9月期決算説明会資料)

 そして、これまで未定としていた通期の業績予想を公表。売上高は前期比62.5%減の7400億円、営業損益は5050億円の赤字(前期は608億円の黒字)、純損益は5100億円の赤字(同276億円の黒字)を見込む。下期は徐々に需要が回復する見通しだが、前期の水準とは程遠く、大幅な減収となる予想だ。

 19年3月期には連結売上高が初めて2兆円を突破し、順調に事業拡大していたが、大幅な需要低迷で一転。赤字幅が5000億円まで拡大する厳しい見通しとなっている。

「コロナのトンネルを抜ける」ための大型機削減

 決算と同時に発表した「新しいビジネス・モデルへの変革」の計画では、「コロナのトンネルを抜ける」(同社)ための一時的な事業規模縮小案を示した。施策によって、21年3月期に約1500億円、22年3月期に約2500億円の費用削減効果を見込む。

 固定費などのコスト構造を見直し、大型機を中心に機材を削減。ANAでは、当初から退役予定だった7機に加えて28機を早期に退役させる。大型機では、ボーイング777型機計22機が退役となるほか、エアバスA380型機1機とボーイング777型機1機の受領を延期。計24機の大型機を削減する。

 LCC(格安航空会社)ブランドのPeach(ピーチ)では、2機の導入予定をゼロに変更。21年3月期末時点のグループ全体の機材数は276機となり、当初計画からは33機の削減となる。

機材の増減計画を見直し、大型機を大幅に削減する(出典:ニュースリリース)

 また、人件費の削減も図るが、業務の内製化や外部への出向などにより、雇用をできる限り維持する方針だ。

 外部に委託していた航空機の整備作業や空港業務などを内製化するほか、グループ内の人員配置の変更で効率的な体制を構築する。さらに、グループ外の企業へ社員を出向させ、コールセンターやホテルのサービス業務、企業の受付・事務・企画業務などを担ってもらう。12月までに約10社に100人程度を出向させる予定で、21年春には400人以上に拡大するという。

 加えて、役職者の報酬や賃金の削減、希望退職者募集、休業・休職制度の拡充、21年度の新卒採用中止などによって、人件費抑制を図る。

第3ブランドの新LCCを立ち上げ

 事業構造改革プランでは、新型コロナによる航空需要の“量”と“質”の変化を踏まえて事業を見直す「新しいビジネスモデル」も打ち出している。

 航空需要はどう変化しているのか。まず、ワークスタイルの変化やWeb会議の普及により、「ビジネス需要は減少し、完全には戻らない」と予想。一方、レジャー需要には潜在的な成長力があると見ている。その上で、単なる移動にとどまらない新たな顧客ニーズも生まれると見る。

 そこで、アフターコロナの新たな需要獲得に向けて、ANA、Peachに加えて第3ブランドのLCCを立ち上げる。グループのエアージャパンを母体としたブランドとなる。ビジネスを中心とした高単価需要が縮小する一方、低価格志向が強まると判断。東南アジアやオーストラリア向けの中距離路線を中心としたレジャー需要獲得を担う。国際線の需要回復傾向を判断しながら、22年度をめどに運航を開始する計画だ。

 ANAがビジネス需要に対応するプレミアムエアライン、Peachが短距離中心のレジャーやビジネス需要に対応する一方で、第3ブランドでは成長が見込まれるアジアマーケットを狙う。エアージャパンを母体とすることで、速やかな事業立ち上げが可能で、急激な需要変動への対応力も保持できるという。

エアライン事業では第3ブランドを立ち上げる(出典:ニュースリリース)

 顧客ニーズの多様化に向けて、エアライン以外の事業による非航空収益の拡大にも取り組む。旅行事業、ANAカード事業、物販事業などを通して、グループ全体で顧客接点を増やし、生活に密着した事業を展開していく方針だ。

 新型コロナによって、多くの人が「移動しない」という、事業の根幹を揺るがす危機が訪れた。国際線を中心に、まだ需要の回復は不透明だ。危機を乗り切り、新しい需要に対応するための取り組みを確実に進めていく事業運営が今、求められているようだ。

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