[ロンドン/ボストン 24日 ロイター] - これまで企業の年次株主総会で環境問題に絡む株主提案が出されることはまれで、提案があってもあっさりと否決されていた。しかし、3月から本格化する今年の株主総会シーズンでは株主提案の大半を気候変動関連が占める見通しで、流れが変わりそうだ。
ロイターが「物言う投資家(アクティビスト)」や資産運用会社など十数社に取材したところ、今年の株主総会では、環境関連の株主提案が大手資産運用会社からこれまでよりも多くの支持を勝ち得る公算が大きいことが分かった。資産運用会社は社会の低炭素化に向けた、実効性のあるプランを求めている
サステナブル・インベストメンツ・インスティテュートがまとめたデータによると、米国で提出された気候変動関連の株主提案は年初来で79件。昨年は通年で72件、2019年は67件だった。今年全体では90件に達する可能性があるという。
株主提案は温室効果ガスの排出量削減、環境汚染についての報告、気候変動が事業に与える影響の評価などを求めている。
石油、運輸から食品・飲料など幅広い業種が標的となっており、企業側は2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロを目指す政府の目標に沿う形で、今後数年間に排出量を削減する具体策を示すよう要求されている。
英国のヘッジファンドマネジャーで富豪のクリス・ホーン氏は「短期的な目標を含む、信頼できるプランのないまま2050年の実質ゼロ目標を掲げるのは欺まんだ。株主は企業に説明責任を負わせるべきだ」と述べた。
多くの企業は、気候変動問題について既に多くの情報を提供していると釈明している。しかし、物言う投資家の間からは、今年は歩み寄りに前向きな経営幹部が増える兆しが見える、との声が上がっている。
ロイヤル・ダッチ・シェルは2月、石油大手として初めて、50年までに温室効果ガスの排出をゼロにする自社計画について株主の諮問投票を行うと表明。これに先立ち、スペインの空港運営会社・アエナ、英国のユニリーバ、米ムーディーズなども同様の投票を発表している。
株主総会決議の大半は拘束力を持たないが、賛成率が30%強程度でも、企業は対応に動くことが多い。
株主総会対応などを手掛けるジョージソンのダニエレ・ビタレ氏は「情報開示の拡大や目標設定に対する要求は、昨年よりもずっと強い」と述べた。
<企業は目標設定に消極的>
2015年に採択された地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」で設定された目標にならい、2050年の排出実質ゼロ目標を打ち出す企業は増えている。だが、中期的な目標を設けている企業はほとんどない。コンサルタント会社・サウスポールがさまざまなセクターを対象に実施した調査によると、中期目標を設定していたのは120社のうち10%に過ぎなかった。
スイスの銀行、サフラ・サラシンのデータ分析によると、MSCI世界株価指数を構成する約1500社の排出率が下がらなければ、世界の気温は2050年までに摂氏3度以上上昇する。パリ協定は50年までの気温上昇を2度未満、可能であれば1.5度未満に抑えることを目標としている。
調査では、業界によって排出量に大きな差があることが分かった。例えば、各企業の排出量がエネルギーセクターと同じ水準なら気温上昇は5.8度となる。原材料セクター並みなら5.5度、一般消費財メーカー並みなら4.7度だ。
<気候変動への取り組みに追い風>
排出量の多いセクターは明確なプランを提示するよう、投資家から最も強く圧力を受けることになりそうだ。
米エクソン・モービルは今年1月、排出量を算出する国際基準「スコープ3」に基づく排出量を公表。これを受け、カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)は情報開示を求める株主提案を取り下げた。
カルパースのコーポレートガバナンス部門を率いるシミソ・ヌジマ氏は、気候変動問題にとって今年は見通しが明るく、他の企業も物言う投資家と合意に至る可能性が大きいと指摘。「気候変動問題に追い風が吹いている」と話した。
<鍵握る資産運用大手>
大株主は影響力が大きいことから、物言う投資家は資産運用世界最大手・ブラックロックが、この問題で取り組みを強めることを期待している。ブラックロックは運用資産が8兆7000億ドルで、気候変動問題に厳しい態度で臨むと約束している。
ブラックロックは先に投資先企業に対して、温室効果ガス排出に関するデータの開示や排出削減の厳しい短期目標の設定を求め、こうした取り組みが不十分な場合は、株主総会で取締役提案に反対票を投じる可能性があると呼びかけた。
欧州の資産運用大手・アムンディも最近、株主提案への支持を拡大すると発表した。
<いずれ戦いに>
ヘッジファンドマネジャーのホーン氏は、企業の年次株主総会の決議を通じて気候変動問題の進捗状況を判断する、恒常的な仕組みの設置を目標に据えている。
上場企業に気候変動プランの情報開示を迫る国際キャンペーン「セイ・オン・クライメート」では、投資家が企業に対し、短期目標など実質ゼロ計画の詳細を示し、年次株主総会で拘束力のない決議に諮るよう求めている。企業の対応が満足の行くものではなかった場合、投資家はより強い態度に出て、取締役会の提案に反対票を投じるという。
早くもこうした流れに弾みが付いていること示す兆しが表れている。
ホーン氏は自分のヘッジファンドを通じて、少なくとも7件の株主提案を出した。ホーン氏が設立した「チルドレンズ・インベストメント・ファンド・ファウンデーション」は他の団体や資産運用会社と協力し、欧米やカナダ、日本、オーストラリアで今後2年間の株主総会に100件以上の株主提案を提出する取り組みを進めている。
ホーン氏は昨年11月に年金基金や保険会社に対して「もちろん、すべての企業がセイ・オン・クライメートを支持することはないだろう。戦いになるが、われわれは投票で勝つことができる」と述べた。
(Simon Jessop記者、Matthew Green記者、Ross Kerber記者)
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